現在、新卒採用は、産学協議会からの提言や政府による就活ルール改定が行われるなど、変革期にあります。
これからの新卒採用に求められるものとは一体何なのか?また、採用担当者はどのような対応が求められるのでしょうか?
そこで、ウイングアーク1st株式会社の人材獲得部門で採用を牽引している南氏に、これからの新卒採用に必要な考えや採用手法などについてインタビューを行いました。
新卒採用に携わる皆様は、ぜひご一読ください。
※新卒採用に従事する採用担当者の想いや取り組みに迫る連載「新卒採用担当のオモテとウラ」第1弾としてお届けします
(取材執筆:戸田)
ウイングアーク1st株式会社 南 賢将 氏
Talent Attraction & Acquisition部 チームリーダー
名古屋大学卒業後、大手鉄鋼メーカー入社。新卒採用担当を経験し、採用領域を極めたいと2020年にウイングアーク1st株式会社にジョイン。新卒採用責任者を担当の後、現在は採用ブランディングと人材獲得の両ミッションを担うTalent Attraction & Acquisition部のチームリーダーとして、採用全体を統括。一児の新米パパとして子育てにも奮闘中。
目次
大規模な母集団形成→スクリーニングする新卒採用活動(旧パラダイム)から脱却せよ
ーー南さんは、大手鉄鋼メーカーからウイングアーク1stに転職され、両社で新卒採用に従事されてきました。最近の日本の新卒採用について、南さんのお考えをお聞かせください。
私は、日本の新卒採用活動は特有の難しさを抱えていると考えています。
日本の新卒採用には、歴史的に形成されてきた、多くの企業が踏襲する標準的な活動のフローが存在しています。大規模な母集団形成を行い、その後画一的な手法によりスクリーニングを実施して学生を採用するというもので、そこには、「採用活動初期の候補者群の数が多ければ多いほど、その中に優秀な人材が含まれる割合が高まる」という、ある種共同幻想のような考え方がベースにあると思います。私はこの新卒採用担当者の思考のクセと、この前提に基づいた採用活動を「旧パラダイム」と呼んでいます。
私が思うのは、「この方法が本当に正しいのか?」「それでいいんだっけ?」ということです。
何となく新卒採用担当の仕事、イコール「大規模母集団形成→スクリーニングを実行すること」あるいはそのスキームを十全に運営することになっているのではないか、と思っています。
ーー旧パラダイムを踏襲していることで、本来の採用活動の目的がぼやけているということですね。
優秀な人材は社会全体で見ても限られた貴重な資源です。それゆえに、獲得するために競争が生じています。
優秀な人材を希少資源と捉えると、採用担当者が本来行うべきことは自社にとって必要な人材がどんな人材であるのかを自分たちで言語化し、自社の力で獲得できるようになることなのではないでしょうか。
つまり、組織能力として人材を獲得できる力を身につける必要があるということです。
このように考えると、「採用」という言葉自体が受け身であるように感じています。そのため、最近は私自身意識して「採用」という言葉をあまり使わないようにしていて、自分たちのことを「人材獲得部門」と呼ぶようにしています。
自社に必要な人材を自社で探し、採用までつなげることは、今や「Want to Have」ではなく「Must Have」
ーー人材獲得部門…本質ですね。
そうなんです。ただ、こういったお話をすると「忙しいからそこまで考えていられない」という声が多いのが現状だと思います。
ただ、ここで少し立ち止まって考えてみていただきたいのは、忙しい理由の1つとして、さっきの旧パラダイムを踏襲している影響が大きいのではないでしょうか。1万件のエントリーシートを処理するのは普通に考えて大変ですよね…
私は以前、大手鉄鋼メーカーで採用担当として働いていましたが、それをまさにやってきた当事者でした。そのため、双方の立場を理解していますが、採用の本質にもっと向き合うことが必要だと思います。
そもそも採用の「あるべき状態」として、自社にとって必要な人材を、自社の力で、事業成長に資する質と量とスピードでもって獲得できる、これを目指していくことが重要です。推薦が上がってきたレジュメを社内に展開して、面接をコーディネートするだけであれば、採用RPO(Recruitment Process Outsourcing)を活用するといいと思います。今の採用RPOは非常に優秀です。
重ねてですが、自社にとって優秀な人材を「自分たちで」探して、採用につなげることは、今や「Want to Have」ではなく「Must Have」となっていると思います。
旧パラダイムから脱却するためには?
ーー旧パラダイムから脱却するにはどうしたらいいのでしょうか?
端的に言えば、「考えて、実践して、改善する」ということかと思います。ポイントは2つあると考えています。
1つ目は、データを収集し、可視化できる基盤を作ることです。そのためには、自分たちからアプローチできる採用手法に取り組むことが重要だと思っています。
まずは、問題の本質を突き止めるための基盤を作る必要があります。これがなければ、旧パラダイムから抜け出すことはできず、採用活動の改善もできません。自分たちからアプローチできる採用手法は、データの収集と可視化がしやすいです。そのため、自社の現在位置を正しく把握し、弱点と強みを把握して、組織として学習を進めることができます。
例えば、採用手法を人材紹介や就活情報サイトに依存している場合、ソーシング活動(採用活動初期のアクション)のデータがブラックボックス化されます。つまり、自分たちは何人にリーチして、何人からリアクションがあり、そのうち何人が応募してくれて、逆に何人は応募してくれなかったのか、そしてそれらはどんな人たちなのか。こういったことが「見えない」んですね。
ソーシングの活動データが貯まらないということは、自分たちのどこが弱いのかが可視化されない。そのため、改善を通じた採用チームの組織学習が進まないのです。
ーー人材紹介や就活情報サイトは有用であるが、それだけに依存すべきではないということですね。
そうです。人材紹介がダメ、就活情報サイトがダメという話では決してないです。そこは誤解の無いように強調したいところです。
ただ、さまざまな選択肢から、採用担当自らが考え抜いて選んでその手段を使っているのか?採用の成果を最大化するために選んでいるのか?ということが重要です。
この問いを、なんとなく放棄し、例年の延長で採用を考えてないか?ということです。
組織能力として人材を獲得できる力を身につけるために、自分たちからアプローチできる手法にも取り組むべきだと思ってます。
ーー重要な問いですね。では、続いて2つ目のポイントについて教えてください。
2つ目のポイントは、ダイレクトリクルーティングの導入です。
先に述べた1つ目のポイントに関連していますが、少なくとも、新卒採用を「自社への中長期的な定着と活躍を通じた、自社の継続的な成長発展のため」と位置づけている企業なら、ダイレクトリクルーティングを導入しない理由はないと思います。
ダイレクトリクルーティングは、自社なりの勝ちパターンを見つけるための試行錯誤の場でもあります。
そして、ナレッジが蓄積され、自社の採用力の強化にもつながります。そういった意味では、これは「投資」なわけです。長期的にコア人材を獲得することが目的であれば、他の採用手法よりも施策として上位に位置づけるべきです。
少なくとも、自社で候補者データベースを持って、自分たちが会いたい人を自分たちで探して、声をかけて、ファンになってもらって、自分たちを選んでもらう、この一連の活動を常に自社がハンドルを握って回すことが非常に重要だと思います。
ただし、注意しなければならないのは、ダイレクトリクルーティングを導入しても、旧パラダイムの思考を持ったままでは意味がありません。
ーー「旧パラダイムの思考を持ったまま」とはどういうことでしょうか?
例えば、ダイレクトリクルーティングを導入しても、定型文で一斉送信するDMのようにスカウトメールを学生さんに送付している企業があると聞いたことがあります。その方法では手段を変えたとしても、思考が旧パラダイムのままということです。
つまり、手法は変えたとしても、結果的には、大規模な母集団形成と画一的なスクリーニングを行っている。結局、就活情報サイトで大規模エントリーをつくるのと同じことをしているんです。
10人を採用するために1000人集めて絞るのではなくて、100人、何なら50人にお声がけしてみて、最もマッチングした10人と結ばれるように頑張る。
究極を言えば、10人採用するために、集めた10人が全員入社する、これが最も生産性が高い。これは、結果の数字は同じでも、活動の中身の濃さと、中でそれに関わる人の学習の密度、さらにはオペレーションの生産性がまったく違います。
これを実現するためには、採用活動における人材要件の定義や、その人物要件を満たすタレントにどうすれば会えるか、どのようにアプローチしていくかなど、より企画および上流工程の精緻さが求められます。
ーーなるほど。旧パラダイムの”思考”から脱却し、スカウトの送付から学生1人1人に向き合うべきということですね。
その通りです。学生1人1人が日本社会における貴重な資源であることを再度強調しておきたいです。貴重な資源である学生の「時間」もまた貴重な資源です。有意義な出会いとなるよう、機会提供側の企業は考え抜いたものを提供すべきだと思います。
自社にとって優秀な人材を「自分たちで」探して、採用につなげる。そのためには、旧パラダイム思考から脱却して、大量の定型的なDMではなく、1人1人に合わせてスカウトを届け、接点機会をいただけたなら最大限その学生のニーズに沿った機会提供をすることが大前提であるべきです。
重要なのは、1人1人に合わせたアプローチと候補者体験を提供することだと思います。
後編では南氏の採用に対する思いやマインドセットを深掘りします。
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