
新卒採用における「職種別採用」や「コース別採用」を導入する企業が増えています。
背景には、「配属先を明確にしてほしい」という学生のニーズの高まりと、「入社後のミスマッチを防ぎたい」といった企業側の課題意識があります。
しかし、導入にあたっては多くの企業が「社内調整」「制度設計」「工数増加」などの壁に直面します。
本記事では、職種別採用の定義と特性を整理し、導入メリット・デメリット、そして導入にあたっての実践ポイントを解説します。
職種別採用とは? 総合職採用・ジョブ型採用との違い
職種別採用とは、新卒採用の選考段階で、入社後の初期配属の職種(またはコース)を確約して行う採用手法です。
たとえば「研究職」「生産技術職」「セキュリティエンジニア職」「データサイエンティスト職」など、業務領域ごとに選考プロセスや配属先を分けるケースが該当します。
総合職採用/職種別採用(コース別採用)/ジョブ型採用との比較
新卒採用における代表的な採用方式は、初期配属やキャリアの確約度、ジョブ(職務)の開示レベルによって以下のように分類されます。

従来の「総合職採用」では、入社前には配属先やキャリアは確約されておらず、入社後に配属先が決まったりジョブローテーションが行われるのが一般的でした。
一方、「ジョブ型採用」は中途採用に近く、職務内容や成果が明確に定義されたポジションに対して採用を行う形式です。
職種別/コース別採用はこの中間に位置づけられ、「初期配属を確約しながらも、将来的にはキャリアの柔軟性を持たせる」という特徴があります。
そのため、学生には安心感を、企業にはミスマッチ防止の効果をもたらします。
職種別採用・コース別採用を導入するメリット
職種別採用やコース別採用が注目を集める背景には、採用環境と学生志向の変化があります。
これまでの総合職採用では、「配属先が見えないまま入社する」「希望と違う部署に配属される」といったミスマッチが発生し、早期離職やモチベーション低下につながるケースが目立っていました。
また、「自分の専門を活かしたい」「研究内容に近い仕事がしたい」という学生の志向も強まっており、弊社の調査では選考時点で「職種」または「配属地域」の確約の確約を希望する理系学生が9割弱を占めるという結果も出ています。

こうした背景の中で、入社後の成長や定着までを見据えた採用として職種別採用を導入する企業が増加しています。
企業側にとっても、
・採用段階で職種ごとの要件を明確にできる
・研究技術現場の協力を得やすくなる
・育成コストや配置転換リスクを下げられる
などの実務的なメリットが多く、結果として採用の質・量の両面で改善効果が期待できます。
以下では、職種別採用・コース別採用を導入することで得られる4つの主なメリットを整理します。
専門性に基づいたマッチングでミスマッチを防止できる
職種別採用の最大の特徴は、学生の専門分野や志向性に基づいてマッチングできる点にあります。
従来の総合職採用では、入社後の配属まで業務内容が見えづらく「思っていた仕事と違った」というミスマッチが発生しやすい傾向がありました。
一方で職種別採用では、選考段階から専門性に即した採用プロセスを経ることができます。
例えば、職種別説明会や面談・面接を行うことで、学生・企業の双方が具体的な業務内容を理解したうえで意思決定できます。
専門性を軸としたマッチングを行うことで、入社後の早期離職リスクを抑え、即戦力としての活躍までのリードタイムを短縮することにもつながります。
学生の“配属確約ニーズ”に応えられる
上述したように理系学生の約9割が選考開始時点で「職種」または「配属の地域」の確約を希望しています。
また、確約の希望度合いは年々上昇傾向にあり、26卒の理系院生向けに行ったアンケート結果では、約75%の学生が「配属確約してほしい」と回答しています。

更にすでに26卒理系院生の約74%が「職種」または「勤務地」のもしくはその両方を確約を得て内定を獲得しているという結果も出ています。

これらのアンケート結果からも、職種や勤務地といった配属確約が、内定承諾に影響を与えていることがわかります。
採用効率と育成効率の向上
また、職種ごとに要件定義や評価基準を明確化できるため、採用から育成までのプロセスを一本化といったメリットも上げられます。
現場が求めるスキルセットを採用段階で見極めやすくなり、採用時の母集団形成〜選考遷移率の向上など採用活動全体の効率化につながります。
また、職種が確定しているため、入社後の初期研修やOJTを職種別に最適化しやすくなります。
この育成の効率化は、専門人材の早期戦力化につながり、結果として現場部門の負担軽減にもつながると考えられます。
採用力強化につながる
入社後の仕事内容や、その職種で目指せるキャリアパスが明確であるため、特に高度な専門性を持つ理系・技術系学生に対して、企業としてその専門性を重視しているというメッセージを発信できます。
また、各コースごとの個別面談や職種別インターンを実施することで、学生に対して深い魅力づけを行うことができ、結果として志望度を高め、企業全体の採用競争力を強化することにつながります。
配属確約が学生がキャリアを考える上で大きな魅力となることから、企業が初期配属確約型採用の導入も進んでいます。
弊社が企業向けに行ったアンケートでは回答いただいた349社のうち、すでに約半数の企業が初期配属確約型採用を導入しているという結果となりました。

こういったことからも採用競争力を維持・強化していくには、職種別・コース別採用のように配属確約型の採用を導入する重要性が増していると考えられます。
新卒採用での職種別採用・コース別採用導入のデメリット
職種別採用は多くのメリットをもたらしますが、導入・運用には、人事部門が乗り越えるべきいくつかの実務的な課題と社内調整のハードルが存在します。
職種やコースごとの人気不人気のばらつき
職種や地域によって学生の志望度に差が生まれやすく、「人気/不人気のばらつき」が生じます。
弊社が企業様向けに行ったアンケート結果では、企業側が特にハードルと感じていることとして「不人気職種・地域の採用」が34.4%と最も多く挙げられています。

特定の人気職種には応募が集中し、逆に採用ニーズが高いにもかかわらず不人気な職種や地方の事業所のポジションが「埋まらないポジション」となってしまうリスクがあります。
このバランスをどのように調整するかは、採用計画の根幹に関わる課題となります。
選考プロセスが複雑化・社内調整
職種別に選考設計を行うため、エントリー管理・面接調整・評価基準が煩雑になりやすい点も課題です。
人事部だけでは対応しきれないため、現場部門との役割分担やスケジュール共有といった協働が欠かせません。
実際、企業アンケートでも「事業部・現場部門との調整」を最大のハードルに挙げる声が多数を占めています。
既存社員の納得感
また長年総合職として入社し、希望しない部署への配属や異動を経験してきた既存社員への配慮も、職種別採用を推進する上で重要な要素となります。
例えば、彼らからすると「なぜ新入社員は配属が確約されるのか」といった不満が生じる可能性があります。
企業向けのアンケート結果でも「総合職として入社した既存社員の反発」の項目が8.3%という結果となりました。
導入ハードルと感じる要素の上位には該当していませんが、制度導入の際には既存社員への丁寧な説明と、彼らのキャリア形成や評価に関しても配慮が不可欠だと考えられます。
職種別採用・コース別採用導入のポイント
これらのデメリットとハードルを乗り越え、職種別採用を成功させ、専門人材確保を実現するための具体的な導入ポイントを3つ紹介します。
人事部門と事業部門の協働で採用活動を行う
採用要件の定義から母集団形成、面談・座談会、内定承諾まで、事業部門を巻き込んだ採用体制を整えることが成功の鍵となります。
特に採用の上流工程から関わっていただくのが効果的です。

例えば、各職種・コースの責任者と人事部門が協働し、必要とされるスキルや人物像、すなわち採用要件を細部にわたって定義します。
要件を明確にしたうえで、スカウトといった要件にマッチした学生をピンポイントで集められる手法を活用することで、母集団の質が高まります。
マッチ度の高い学生が集まることで、その後の選考遷移率や内定承諾率といった歩留まりにも影響するのです。
学生に仕事内容・キャリアパス・働く環境が伝わる設計にする
職種確約の魅力を最大限に高め、ミスマッチを防ぐには、学生に対して「入社後のリアル」を具体的に伝えることが不可欠です。
中でも現場社員との「深い接点を作ることができる設計」が効果的です。
例えば、少人数座談会や職種別説明会、個別面談などを通じて 、学生がその職種で働く社員と深く対話できる機会を設け、仕事の魅力だけでなく、困難さや職場の雰囲気といったリアルな情報を提供します。
理系学生約1,000名に行った調査では、『最も面談したいポジションは誰か』という問いに対し、約6割の学生が『研究者・技術者』と回答したという結果も出ています。

長期的なキャリアパスと育成制度の連携を強化する
初期配属を確約することで、学生にとってキャリアの出発点が明確になります。
一方で固定化しすぎると将来の柔軟性を欠くリスクもあります。
そのため、中長期的なローテーション方針やキャリア支援制度を明示し、「専門性を磨きながら成長できる」設計にすることがポイントです。
専門コースで入社した社員に対して、手を動かし続けるスペシャリストとしての軸だけでなく、マネジメントなど多様なキャリアパスを提供し、長期的に成長できる環境を整備していく必要があるでしょう。
まとめ
職種別採用・コース別採用は、学生の希望に応えるだけでなく、採用競争力と育成効率を高める戦略的な施策です。
導入にはハードルもありますが、学生志向の変化や他社の動向を踏まえて、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
本記事でも紹介した学生および企業向けに実施したアンケートの詳細な結果について、下記の資料にまとめていますので、ぜひ合わせて御覧ください。

