
理系採用のなかでも、機電系学生の採用は特に難易度が高いとされています。
「求人を出しても応募が少ない」「選考途中で辞退される」「内定を出しても承諾に至らない」——。
多くの企業が、こうした課題に直面しています。
大手企業でさえ採用に苦戦しており、旧来の手法だけでは優秀な学生に出会いにくいのが現実です。
では、なぜこれほどまでに採用が難しくなっているのか。効果的な採用を行うためにどうすればよいのか。
本記事では、機電系学生の最新動向と特徴を分析し、採用成功に向けた戦略設計・実践施策・成功事例を解説します。
機電系学生とは?特徴と就活スケジュール
機電系の学生とは、「機械」「電気・電子」など、ものづくりの基盤となる分野を学ぶ理系学生のことです。
自動車、電機、精密機器、ITなど幅広い業界で需要が高く、設計開発・研究開発・生産技術などの職種で活躍が期待されています。
機電系学生の採用競争が激化する現代において、まず学生の就活スケジュールや考え方といった特徴を理解することが、効果的な採用戦略を立案するためのポイントになります。
機電系学生は就職活動を早めに始める傾向
まず機電系の大学院生(院生)の就活スケジュールの例を見ていきます。

修士1年の春(4〜5月)から就活サービスに登録を開始し、夏のインターンや就業体験の情報収集、個別面談への参加を経て、秋以降は志望業界・企業を絞り込み、エントリーを進めるのが一般的な流れとなっています。
弊社が2024年11月に26卒理系院生向けに取ったアンケート結果でも、機電系学生は6月までに約86%が活動を開始することがわかりました。

効率的で専門性を重視する就職活動
機電系の学生はエントリー数企業を絞り込み、効率的な就職活動をしているという傾向が見られます。

アンケートのデータでは、エントリー社数が10社以内の学生が約80%。25卒では1〜4社以内の割合がさらに増加しています。
特に院生は研究で忙しく、時間の制約も要因となり、エントリーの絞り込みの傾向が強くなっていると考えられます。
加えて、内定数も少数に絞る傾向が見られ、広く受けて多数内定を保有するイメージとは実態が異なります。

つまり、検討段階の早い時点で企業リストが固まりやすいのが機電系学生の就活の特徴だと考えられます。
インターンシップは“内定”への重要接点
続いてインターンシップへの参加についての傾向です。
アンケートから約75%の機電系院生が入社予定企業のインターンに参加していることがわかります。

上記の結果からも、機電系の学生はインターンシップを重視しており、効果的な採用していくためにはインターン開催が重要になってきていると捉えられるかと思います。
なぜいま、機電系学生の採用が難しくなっているのか
機電系学生の就職活動の特徴を見てきましたが、ここでは改めて「なぜ、機電系学生の採用が難しくなっているのか」についてみていきます。
背景には、学生側の変化と、企業側の課題の両方が存在します。
学生側の観点:就職活動の効率化によるエントリー社数の減少
上述したように機電系学生はエントリー企業数を絞る傾向が強く、10社以内が約8割を占めます。
つまり「少数精鋭」で企業を選び、効率的に内定を得る就活スタイルが主流となっています。
これは研究で忙しく、時間の制約も要因の1つとなっていると考えられます。
企業側の観点:「会いたい学生に出会えない」
多くの企業が抱える課題は、「自社が本当に欲しい学生と出会えない」という点に集約されます。
この課題は、大きく2つのパターンに分類できます。

①エントリーが集まらない問題
特にBtoB企業や地方企業に多く見られるケースで、学生への知名度が低い、あるいは自社の事業や技術の魅力が十分に伝わっていないために、そもそも母集団を形成すること自体が困難な状況です。
②有効な母集団が形成できない問題
ある程度の数のエントリーは集まるものの、自社の求める専門性やスキルセットとマッチしない学生が多かったり、内定を出してもより知名度の高い企業に流れてしまい、承諾に至らなかったりするケースです。
このように、学生側の「絞り込み」と、企業側の「接触機会の創出の難易度」という課題が絡み合い、機電系学生の採用を一層困難なものにしています。
機電系学生の採用戦略と考え方
機電系学生の特性と早期化する活動スケジュールを踏まえると、従来の画一的な採用活動での成功は難しいと考えられます。
成功の再現性を高めるためには、学生の就職活動や意向に合わせた、戦略的フレームワークがポイントです。
採用戦略の3ステップ:「Who」「What」「How」
採用戦略を体系的に整理するために、以下の3つのステップで考えることが有効です。

下記の3つの要素を順序立てて具体化していくことが、採用活動の精度を高めるのにつながります。
① Who(誰に):そもそも、誰が自社のターゲットなのか?
② What(何を):そのターゲットに、何を伝えれば魅力的に感じてくれるのか?
③ How(どうやって):どのチャネル・手法を使って、どうアプローチするのか?
Who(誰に):採用したい学生の具体化が重要
採用戦略において重要な基礎となるのが「Who」、すなわち採用したい学生の明確化です。
「誰に」を具体的に定義することで、その後の「What(伝えるべきメッセージ)」と「How(適切なアプローチ手法)」につながります。
例えば、以下のようにターゲットの解像度を上げるだけでも、取るべきアクションは全く異なります。
・改善前:「機械工学を専攻する優秀な学生」
・改善後:「地方国公立大学に在籍し、『流体力学』に関する研究経験を持つ修士学生。BtoBの事業内容への理解があり、完成品メーカーだけでなく、基幹部品を支える技術に興味を持つ可能性のある層」
このように求める学生像を具体化することで初めて、彼らに響くメッセージや、彼らに出会える場所が見えてくるのです。
What(何を):学生のフェーズに合わせた魅力の伝達
ターゲット(Who)が明確になったら、次に彼らが「何を」求めているのかを理解する必要があります。
特に、学生の就職活動のフェーズによっても、重視する項目は変化します。

例えば、就活前半(情報収集〜エントリー)では、「専門性を活かせる事業・職種」であるかどうかが重要な判断基準となります。
就活後半(内定〜入社先決定)に差し掛かり、複数の内定企業を比較検討するこの段階では、「理念・社風・人」といった組織文化や、「給与・待遇」といった現実的な条件が重要な決め手となります。
このようにフェーズの変化を捉え、適切なタイミングで適切な情報を伝える「魅力付けのストーリー」を設計することが求められます。
How(どうやって):最適なタイミングと手法でのアプローチ
「Who」と「What」が定まって初めて、「How」の設計が可能になります。
Howは「チャネル」「接触方法」「時期」の3要素で考えると効果的です。

学生に向けたメッセージを、どのチャネル(ナビサイト、スカウト、イベント等)を使い、どういった接触方法や場(説明会・個別面談・インターンシップ等)を設定し、どのようなタイミングで実施するのか。
この「How」の具体的な施策が、戦略を成功に導くポイントとなります。
「Who-What-How」のフレームワークのより詳細な活用については、下記の資料で紹介していますので、参考にしてください。
「知名度に悩む企業が取るべき機電・情報系の採用戦略」をダウンロードする
機電系学生の採用成功のため具体的な施策
「Who-What-How」の戦略フレームワークを見てきましたが、ここからは具体的なアクションプランに落とし込む必要があります。
代表的な3つの施策を解説します。
施策1:学生の就活スケジュールに合わせた早期アプローチ
前述の通り、機電系の学生の就活は非常にスピーディーです。
そのため学生の就活スケジュールを加味した採用活動が重要になります。

■ポイント①
4月までに採用設計、6月前には施策開始 学生が本格的に動き出す夏前には、企業側は準備を終えている必要があります。
具体的には、4月までに採用要件の設定や魅力付けのストーリーといった採用設計を完了させ、6月前にはインターンシップの告知やスカウト配信といった具体的な施策を走らせることが理想です。
■ポイント②
9月までに学生と接触を行い12月までに魅力付け、本選考の母集団形成に繋げられるのが理想です。
秋冬インターンシップや個別面談などを通じて、12月までにはターゲット学生への魅力付けを完了させ、本選考に進んでもらうための強固な母集団を形成することを目指します。
■ポイント③
機電系院生の約70%が、修士1年3月までに内定承諾する会社から内定を得ているというアンケート結果もあり、6月までに大半の学生は入社先を決定することから、年明けごろからは選考を開始し内定出しを行えると良いでしょう。
施策2:スカウトサービスを駆使した「攻め」の母集団形成
母集団形成では、様々なチャネル・アプローチ手法があるため、強みや特徴を理解して組み合わせることが有効です。

いくつか例を上げると、求人サイトであれば工数を抑えて母集団を作ることができるメリットがある。一方で自社の要件とのマッチ度合いの担保が難しかったり、知名度によってはエントリーが少なくなるといった特徴が考えられます。
大学や研究室訪問は、要件とマッチする学生と会える可能性が上がるメリットがありますが、訪問に時間や工数がかかる点や、成果が出るまでに時間がかかるといったデメリットもあります。
このように各チャネルでメリット・デメリットなどがあるため特徴を押さえて組み合わせることがポイントです。
機電系学生の採用にあたっては、エントリーを「待つ」だけの採用活動では、エントリーの絞り込みを強める学生との接点は限られるため、「攻めの採用(ダイレクトリクルーティング)」を実施することが効果的です。
特に知名度に課題を感じる企業様には相性の良い施策となります。

複数の採用チャネルを組み合わせるポートフォリオの考え方の中でも、スカウトサービスは、自社をまだ知らない優秀な学生層に対して、企業側から直接アプローチできる強力な武器となります。
学生の研究内容やスキルプロフィールを基に、親和性の高いターゲットに絞ってアプローチすることで、質の高い母集団形成が可能になります。
施策3:「実務体験」「社員との対話」「丁寧なFB」を盛り込んだインターンシップ
インターンシップは、採用の成否を分ける重要コンテンツです。
学生を惹きつけ、満足度を高めるためには、彼らのニーズを的確に捉えた設計がポイントとなります。この期待に応え、高い満足度を生み出すためには、以下の3つの要素が鍵となります。

①実務に近い体験:実際の製品や設備に触れたり、業務に近い内容に取り組んだりすることで、学生は働くイメージを具体化できます。
②現場社員との接点・対話:リアルな声を聞ける場は、学生が企業文化とのマッチ度を測る上で非常に重要です。
③的確で丁寧なフィードバック:一人ひとりに向き合った丁寧なフィードバックは、学生の成長実感につながり、企業への信頼感を醸成します。
これらの施策は、それぞれが独立しているのではなく、連動して機能することで更に効果を発揮します。
早期に接触し、スカウトで惹きつけ、価値あるインターンシップで関係を深めることで効果的な採用活動となります。
機電系学生の採用事例
これまで解説してきた戦略や施策が、実際の採用現場でどのように機能し、成果に結びついているのか。
ここでは企業様の事例を紹介します。
事例1:【BtoB/地方】バルブメーカーA社
■企業の基本情報
・業界:バルブメーカー
・規模:500名規模
■取り組み前の課題
・BtoB企業では学生への認知度が低く、自然流入での母集団形成が困難
・結果として、理系学生の採用が毎年0名という危機的な状況だった
■具体的な取り組み内容
・自社の事業内容と親和性が極めて高い「流体力学」を学ぶ学生にターゲットを絞り込み
・ダイレクトリクルーティングサービスを活用し、ターゲット学生に直接スカウトを送付。事業の魅力を具体的にアピール
■取り組み後の成果
・4名の機電系学生から内定承諾を獲得
・自社の勝ち筋(接触すべきマーケット)が明確になり、次年度以降の採用活動も安定化させることに成功した
事例2:【地方】半導体メーカーB社
■企業の基本情報
・業界:半導体メーカー
・規模:300名規模
■取り組み前の課題
・地方に本社を構えているため、選考エントリー数が少なく、選考途中や内定後の辞退が頻発していた。
■具体的な取り組み内容
・ダイレクトリクルーティングで自社事業に魅力を感じる学生との接触を増やし、有効母集団を形成。
・サマーインターンシップから本選考までの間に、学生の志望度を高めるための「アトラクトイベント」を新設
・内定出し後はLINEで密に連絡を取り、キャリアアドバイザー的な立場で学生に寄り添った
■取り組み後の成果
・選考エントリー率が50%→90%、選考中歩留まりが65%→95%、内定承諾率が30%→75%へと改善した
まとめ
本記事では、機電系学生の採用を成功させるための考え方と具体的な手法を、最新データと事例を交えて解説してきました。
最後に、解説してきたポイントをまとめます。
まず、現代の機電系学生採用は、「早期化」「効率化」「絞り込み」というキーワードに象徴される、極めて競争の激しい市場であることを認識する必要があります。
こういった状況を乗り越えるためのポイントが、「Who(誰に)」「What(何を)」「How(どうやって)」というフレームワークです。
誰に、何を、どのように伝えるのか。この一貫した設計こそが、採用活動の成否を分けます。
そして、その戦略を具体的なアクションに落とし込んだ施策として、以下の3つが挙げられます。
①学生のスケジュールに合わせた早期アプローチ
②能動的に学生にアプローチするダイレクトリクルーティングをはじめとした「攻め」の採用
③学生のインサイトを突いた価値ある体験設計(インターンシップ等)
本記事の内容をより詳細に解説している資料もございますので、ぜひあわせて御覧ください。

