
「優秀な理系学生ほど、内定を出しても辞退されてしまう」
「自社の本当の魅力が、なかなか学生に伝わらない」
理系採用の現場では、こうした切実な声が後を絶ちません。売り手市場が続くいま、従来通りのやり方では限界を感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、厳しい採用環境の中でも、独自の戦略で優秀な理系院生から選ばれ続け、8割を超える高い内定承諾率を誇る企業があります。半導体関連の電子部品メーカー、山一電機株式会社です。
先日、株式会社LabBaseで開催された交流会で、同社の人事を率いる山下徹氏が、その戦略を語りました。本記事ではその講演内容を基に、明日からの採用活動のヒントとなる、山一電機流のアプローチを紐解いていきます。
目次
登壇者紹介

山一電機株式会社
総務人事グループ長代理
山下 徹 氏
新卒で大手証券会社へ入社。10年間リテール営業。 毎日飛び込み100件の新規開拓。 同期1,000人。10年で残った新卒1割以下・・・の厳しい世界。 その後、駐車場の会社へ転職。 50人規模のベンチャーから1万人規模へ成長。 33歳で初めて『自分がやりたいこと』がわかり人事へ。 社労士資格を5年かけて取得。 採用に対する思い・・・ 『可能性を感じる人材を採用する』・・・採用モットー
山一電機の新卒採用背景と実績
山一電機は創業70年、電子部品・半導体関連の上場企業です。売上の8割を海外が占めるグローバル企業でありながら、平均年齢は44歳、平均勤続年数17年という保守的な社風を持ち合わせています。
そんな同社が新卒採用を再開したのは2017年。当初はまさに“ゼロからのスタート”で、採用チームも体制も一から整える必要がありました。市場環境は「超売り手市場」。特に理系人材の獲得には苦戦していました。
そこで同社が掲げたのが、採用を単なる人手確保の手段としてではなく、会社の変革を推進する力と捉える姿勢でした。
2021年からはLabBase就職を導入し、下記のような実績と効果を得られました。
- ・採用実績: 導入後3年間で12名に内定を出し、10名が入社。
- ・内定承諾率: 約83%と極めて高い水準を維持。
- ・採用者の質と定着: 採用者の多くが国公立大学の大学院生。現場からも「専門性が高く即戦力になる」と高く評価されており、定着率も高い。
では、なぜ山一電機はこれほどまでに学生から選ばれるのでしょうか。その根幹には、「3つのこだわり」が存在します。
採用における“3つのこだわり”
採用は究極の新規開拓営業である
「採用は、かなり営業活動に近い。お客様のところに足繁く通い、懐に入り込んで、ニーズを聞き出す。それと同じです」
採用は、自社を選んでもらうための「営業活動」である。学生という「顧客」と向き合い、関係構築していくことが第一。この考え方が、徹底した学生との対話姿勢の原点となっています。
採用はゴールではなくスタート
「内定承諾がゴールだと考えがちですが、それはあくまでもスタート地点です」
採用活動の真の成功は、入社した人材が組織で活躍してこそです。入社後のミスマッチを防ぐため、同社では入社後3年間にわたる定期的な人事面談を行い、入社後の活躍をデータ化。それを次の新卒採用に活かしています。
学生だけでなく、社内、特に役員をその気にさせる
「学生をその気にさせるのも大切ですが、社内、特に役員をその気にさせる。分かりやすく言うと“口説き落とす”くらいの工夫が大切です」
人事が「逸材だ」と感じる候補者も、役員や現場の視点では評価が異なる場合があります。「うちは機電系でないと」といった固定観念を乗り越えるため、役員とのコミュニケーションを工夫しています。
例えば、「この学生は、現在活躍中の若手、高橋君と非常に似た強みを持っています」というように、社内で活躍している社員と関連付けて推薦する。こうした社内向けの“プレゼンテーション”も、採用成功に不可欠なスキルだと山下氏は語ります。
山一電機 現在の採用戦略
年間の採用人数はおおよそ10名。主なターゲットは、地方国公立大学の大学院生です。
大学院生を重視する理由は、以下のような現場の評価からきています。
- ・専門性が高く、研究姿勢が仕事にも表れる
- ・論理的思考やプレゼン能力が高く、グローバル対応にも強い
- ・将来的に会社のコア人材になる可能性が高い
採用チャネルは、スカウトサイトがメインで3媒体を並行活用。ナビサイトは一切使っていません。
「ナビで待ってても誰も来ない。それより、自分たちが欲しい学生に、自分たちから会いに行くという方針で、母集団の質を高めています。」
内定承諾率を高める“山一電機流・方程式”
山下氏は、内定承諾率を高めるための重要な要素は以下の3つと捉えています。
- 接触の回数
- 接触の間隔(時期)
- 最終面接の時期
これらを最適化するために、具体的に実施している施策をご紹介します。
自社PRより学生の学びを優先する「テーマ別インターン」
学生との接触回数と質を高めるため、毎月テーマを変えてインターンシップを実施しています。その最大の特徴は、徹底して「学生目線」であることです。
「自社の話を長くするより、まずは『この人事担当者は面白いな』と興味を持ってもらう方が重要です」
- インターンテーマの例
- ・業界研究向け: 「これから伸びる業界の見つけ方」
- ・企業研究向け: 「有価証券報告書から企業のリアルを知る方法」
- ・自己分析向け: 「人事目線の自己分析講座」
自社のPRはあくまで関連情報として触れるに留め、学生の知的好奇心を満たすコンテンツを提供。これにより学生との長期的な関係を構築し、志望度の高い学生には工場見学会や座談会などクローズドなイベントへ個別に案内することで、特別感を醸成しています。
アプローチを最適化する「学生情報の見える化」
学生一人ひとりの状況をデータで管理し、「見える化」を徹底しています。
- 【学生の3分類管理】
学生の志望度やポテンシャルに応じて、アプローチの優先度を明確にしています。- 1.確約: 最も志望度が高く、内定承諾の確度が高い学生。
- 2.期待: 優秀だが、他社と迷う可能性のある学生。
- 3.保険: 採用目標達成のための候補となる学生。
この分類に基づき、限られたリソースをどこに集中させるかを判断。インターン参加回数や面談内容などを記録し、感覚だけに頼らない戦略的なアプローチを可能にしています。
そして、この分類を基に、一人ひとりへのアプローチを柔軟に変化させていきます。
例えば、選考が始まれば1次・2次面接の直後に必ずフィードバックの時間を設け、丁寧なコミュニケーションを重ねます。学生の状況に応じて最終面接の前に人事面談を挟むなど、画一的ではない個別対応で関係を深めていきます。
「学生の性格を見極め、あえて少し距離を置いてみる。そういった間をうまく使うことも、時には必要だと思っています」
すべての学生に同じ熱量でアプローチするのではなく、学生一人ひとりの状況と、3分類のデータを掛け合わせて、コミュニケーションを設計することもできるようになります。
勝率を最大化する「戦略的な最終面接」
「最終面接は、カードゲームのようなもの。どのタイミングでどのカードを出すか、が重要です」
最も重要なのが「最終面接のタイミング」です。山下氏が重視するのは、「学生が、内定を出されたら“決断できる”状態にあるか」という点です。
面談を通じて学生の“温度感”を丁寧に見極め、「内定を承諾してくれるタイミング」に合わせて最終面接日を案内します。
また、いきなり最高評価の学生を役員に会わせると、その後の評価基準がぶれてしまうため、面接の順番まで含めて戦略的に設計をします。
社内の巻き込み戦略:役員を“その気”にさせる
採用成功のカギは、社内、特に役員の巻き込みです。山下氏は、以下のような工夫をしています。
- ・ロールモデル提示:「この子は“高橋君”と同じタイプです」と、社内で活躍している社員と結びつけて説明
- ・面接中の“見せ場”設計: 固定観念を持つ役員にも、学生の良さが刺さるような回答を引き出す質問を事前に準備
- ・学生を最終面接に呼ぶ順番も設計: 最初に最終面接に呼んだ学生が、役員の中で基準になってしまうため、最終面接する“順番”も綿密に計画
さらに、現場責任者にも採用市場の厳しさを説明し、協力体制を築いています。世間で“人手不足”が話題になった直後を狙うと、理解が得られやすくなります。
若手社員には毎月実施しているインターンシップには「インターンヘルプ」という形で参加してもらっています。そこで、彼らが学生に対して人事と同じ感覚で会社のことを話してるか、人事が言いたかったことをちゃんと理解して学生に伝えられているかというところをよく見るようにしています。インターンシップの場は、若手社員の成長を測る機会でもあるのです。
採用は“会社を変える”一番の近道
山下氏が採用に熱を注ぐのは、「会社を変えられるから」。
「制度は変えられなくても、“誰を入れるか”で会社は変わる」 「採用活動を通じて、10年後、20年後の会社をどう変えていきたいか。それを考えるのが採用の面白さです」
保守的な企業であっても、意志を持って新しい人材を入れ、活躍させていけば、少しずつ社風も風通しも変わっていく。実際、社内で、過去には「大学院生はいらない」という声が強かったものの、粘り強く説得を続け、今では彼らが現場を牽引しており、会社の成長に貢献しています。
編集後記
理系採用の厳しさが叫ばれる中、内定承諾率8割超え、さらに採用した人材の高い定着率を維持されている山一電機の山下様に、その成功の秘訣をお伺いしました。
- ・「採用=営業・関係構築」へのマインドシフト
- ・学生と市場の動きを敏感に感じ取った上での、学生から社内まで全てのステークホルダーを巻き込んだコミュニケーション
- ・データと感覚を融合させた、柔軟な個別対応
この中でも、学生一人ひとりに対してのコミュニケーション量の多さと見極め力が印象的でした。多い時には1人につき10回ほど面談を重ねるとのことで、「自分たちが欲しい学生に、自分たちから会いに行く」姿勢を徹底されている様子が伺えました。
最後に、貴重な知見と熱い想いを共有してくださった山一電機の山下徹氏に、心より感謝申し上げます。
左から、株式会社LabBase 加茂、山一電機株式会社 山下様・加藤様、株式会社LabBase 田中
山一電機株式会社 山下様・加藤様へのインタビュー記事も公開中! >>質を追求した採用で未来の幹部候補を獲得!山一電機がLabBaseで実現した「ミスマッチのない理系採用」

